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札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)11号 判決 1982年5月27日

控訴人(原告) 石黒世之 外一九名

被控訴人(被告) 北海道知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは「原判決を取消す。本件を札幌地方裁判所に差戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張、証拠の提出、援用及び書証の認否は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人ら)

1  住宅地造成事業に関する法律(以下「住造法」という。)は、抽象的な公共利益のみを保護するのではなく、具体的な個人の利益をも保護するものであるところ、本件処分は控訴人らの右住造法上の利益を奪つたものである。

(一) 住造法は良好な宅地の確保により公共の福祉の増進を意図するものであるが、良好な宅地が確保され公益が増進される場は抽象的な地域一般ではなく、具体的な地域であり、現実の宅地の需給改善が図られて、はじめて住造法の目的である良好宅地の確保による公益の増進が実現されるものであるから、住造法にもとづく知事の規制、指導等の権限行使に際しては、具体的な地域の事情、事実関係を無視することはできないものであり、これを無視しえない限り、控訴人らの宅地造成について有する具体的な利益は住造法の保護法益として正当に評価しなければならない。

控訴人らは、本件処分のなされたころ、本件宅地造成事業の施行地区であつた第六工区の土地において、訴外株式会社ユー・アンド・アイ・マツザカ(以下「訴外会社」という。)により宅地造成実施の体制がとられ、その一部において造成が完了していたうえ、訴外会社と控訴人ら間では、その所有する本件土地につき右造成事業にかかる造成工事を実施することの合意がなされていたことから本件宅地造成事業について強い信頼を有していたのであり、控訴人らの訴外会社に対する右の宅地造成事業実施についての信頼は法律の保護すべき利益である。

(二) また宅地造成事業の認可にあたり、これに同意した施行地区内の土地所有者等は、その同意を要件として建築物の建築につき公法上の規制を受けるが、これは住造法が、その同意した土地所有者らに対し、事業計画に従うべき公法上の責務を負わせているからであり、しかもこのような責務を負わせ得るのは、他方でその所有者等に対し認可による公法的規制を受けた事業計画が遂行され、その計画に従つた良好な宅地を確保されるという公法上保護された利益を与えられているからにほかならない。したがつて控訴人らは、事業計画に同意した土地所有者(あるいは譲受けによるその地位の承継人)として、良好な宅地を確保し得べき住造法により保護された利益を有していたというべきである。

(三) しかるに、本件処分は控訴人らから右のような住造法により保護された利益を奪つたものである。

2  控訴人らは、前記住造法により保護された利益に加え、都市計画法(以下「都計法」という。)に基づく法律上の利益をも有するところ、本件処分はこの利益をも奪つたものである。

すなわち、本件土地は都計法七条の市街化調整区域に含まれるが、住造法による認可事業の施行として行う開発行為が行われた土地内に含まれる限り都計法四三条一項但書により市街化調整区域内の建築等制限の特例が認められているから宅地造成事業完成の暁には、右建築等の制限が解除されて宅地としての利用が可能となるものであり、なおこのような宅地利用に対する規制の効力変動は事実上の効果とか反射的効果というものではなく、都計法の右規定により生ずる公法上の劾力変動というべきである。ところが、本件処分は都計法の右規定により付与された調整区域において宅地利用できるという利益を控訴人らから奪つたものである。

3  本件処分は、控訴人らの所有地を本件住宅地造成事業計画区域から除外する旨の事業計画変更に対する認可処分であつて、単なる届出でまかない得る事業計画の廃止(一部廃止)と観念すべきものではない。

すなわち、一旦宅地造成事業の認可を受けた事業主は、その事業計画に従つて施行すべき公的義務を負つているところ、その事業の一部を廃止して施行地区を縮少するには、前の事業計画によるべき公的義務を解除して、新たなる事業計画に従つた公的義務を設定する必要があるから、これは住造法一〇条一項の事業計画の変更認可の対象となる行政処分である。なお、住造法一六条は、単なる届出のみにより手続を済ませる宅地造成事業の廃止について定めるが、これは同趣旨の規定である都計法三八条と同様に、事業を全部廃止する場合の規定であつて前記のような施行地区の減少は、右の宅地造成事業の廃止には含まれない。

4  本件処分は、住造法一〇条二項、七条に基づく控訴人らの同意を得る手続が履践されずになされたものであるから、その手続上違法である。

すなわち、住造法一〇条二項、七条による土地所有者等の同意とは、すでに宅地造成事業認可の時点においてなした同意により生じた前示1の(二)の公法上の責務と利益の法律関係ないし法律状態を撤回し、新たな法律関係、法律状態を作出することを承認する旨の意思表示であるから、同法一〇条一項による宅地造成事業の変更認可にあたつては、右の同意を得ることが不可欠であるというべきであるところ、本件処分は、控訴人らの右変更についての同意を得ることなくなされたものであるから、その手続上違法というべきである。

(被控訴人)

控訴人らの右主張はすべて争う。

(証拠)<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本件訴を却下すべきものと判断する。その理由は原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

なお、控訴人らの当審における1の(一)の主張は、控訴人らの訴外会社に対する宅地造成事業実施についての信頼をもつて、住造法により保護された法律上の利益であるとするものであるが、しかし住造法四条による宅地造成事業の認可がなされ、その事業計画が具体化されて一部が実施されたことなどにより、これに同意した施行地区内の土地所有者等がその所有地等についても造成工事が実施されると信頼するに至つたとしても、住造法においてそのような土地所有者等の期待的利益を法律上の利益として保護する趣旨の規定は見出し得ないうえ、規定全体の趣意に照らしてもこれを法律上の利益とみることはできないから、右の主張は採用できないし、また控訴人らの当審における1の(二)、(三)及び2の主張も先に引用した原判決理由第二項1ないし3に説示されているところと同様の理由によつて、控訴人らが住造法や都計法上その主張のような法律上の利益を有するとは解し得ないのでやはり採用の限りではない。

二  よつて控訴人らの本件訴は、その余の点につき判断するまでもなく不適法であり、これを却下した原判決は相当であるから本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安達昌彦 藤井一男 喜如嘉貢)

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